2008年2月25日月曜日

買収防衛策Q&A

今日も昨日から引き続き仕事といった仕事はなく、お勉強で時間を過ごした。それにしても、楽な会社だな…。

本日のテーマは買収防衛策で、過去に僕がセミナーに出席した際に作成したレポートに再度手を加えたものだ。まだ買収防衛策導入リスク分析は終わっていないが、途中経過を見る限り、買収防衛策導入になりそうなので改めて買収防衛策の論点になりそうな、特にブルドックソース事件と絡めて自分の頭の中で整理した。



・買収防衛策を発動する買付割合は、買収者が保有株式「20%」を超えたときとする場合が多いが、この20%の根拠は何か。

防衛策を発動する買付割合には合理的な幅が求められる。例えば60%にしてしまうと防衛策を導入する意味がないし、逆に10%など低すぎると通常の売買も妨げてしまい、企業価値研究会の定める「必要性・相当性の原則」に違反することとなる。よって、20%くらいが無難か、と解釈されており、決して20%でなければならないことはない。


・平時において買収防衛策を導入していても、発動するか否かの判断は、株主によってなされるべきか。

ブルドックソース事件の最高裁の判決によると「特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の企業価値がき損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるか否かについては、最終的には、会社の利益の帰属主体である株主自身により判断されるべきものである」とのこと。注意すべきは、ブルドックソース事件は、平時には買収防衛策を導入しておらず、有事になってから株主総会特別決議を経て導入された。よって、平時に買収防衛策が導入されている会社において、買収防衛策発動条件に株主総会決議が必要かどうかは、明らかではないと言える。


・ブルドックソース事件では事前に防衛策を導入することなく、対抗措置が認められたが、発動について株主総会に諮るようにすれば、必ずしも防衛策導入を株主総会に諮る必要はないのか。

従来は、有事になってから取締役会で導入した防衛策は、買収者が主要目的ルール*に反する限り認められなかった。しかし、ブルドックソース事件では、株主総会の特別決議を経ることで、防衛策が認められた。よって、平時導入の際も株主総会決議は不可欠ではないが、裁判所が株主判断を重視している点を考慮して、実務的にはどこかで株主決議をしておくことが望ましい。

スキーム1:取締役会決議で導入し株主総会決議で発動
→臨時株主総会を開催する必要があるので機動性がないが、裁判所は株主判断を支持していることから有効。
スキーム2:株主総会決議で導入し発動は取締役会に授権
→発動の必要性は裁判所がすることになるが、何もしていない(株主総会決議を経ていない)場合より判断は厳しくないだろう。

【参考】主要目的ルール
「株式会社においてその支配権につき争いがある場合に、従来の株主の持株比率に重大な影響を及ぼすような数の新株が発行され、それが第三者に割り当てられる場合、その新株発行が特定の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することを主要な目的としてされたものであるときは、その新株発行は不公正発行にあたるというべきであり、また、新株発行の主要な目的が右のところにあるとはいえない場合であっても、新株発行により特定の株主の持株比率が著しく低下されることを認識しつつ新株発行がされた場合は、その新株発行を正当化させるだけの合理的な理由がない限り、その新株発行もまた不公正発行にあたる」(東京地裁平成1年7月25日 忠実屋・いなげや事件)


・新株予約権無償割当て、新株予約権(取得条項付新株予約権)の発行について差別的な方法を実施できる要件は何か。

会社法278条2項*により、新株予約権にも株主平等の原則は及ぶが、ブルドックソース事件の最高裁の判決では「特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の存立、発展が阻害されるおそれが生ずるなど、会社の企業価値がき損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるような場合には、その防止のために当該株主を差別的に取扱ったとしても、当該取扱いが衡平の理念に反し、相当性を欠くものではない限り、これを直ちに同原則の趣旨に反するものということはできない」とある。

【参考】会社法
(新株予約権無償割当てに関する事項の決定)
第二百七十八条
株式会社は、新株予約権無償割当てをしようとするときは、その都度、次に掲げる事項を定めなければならない。
2  前項第一号及び第二号に掲げる事項についての定めは、当該株式会社以外の株主(種類株式発行会社にあっては、同項第四号の種類の種類株主)の有する株式(種類株式発行会社にあっては、同項第四号の種類の株式)の数に応じて同項第一号の新株予約権及び同項第二号の社債を割り当てることを内容とするものでなければならない。



・特別委員会の勧告に法的な根拠はあるのか。

買収防衛策は会社法362条4項*の「重要な業務執行」にあたり、これは取締役会の権限であるので、特別委員会の勧告には法的な根拠はない。特別委員会の勧告は取締役会の判断材料の一つとなる。

【参考】会社法
(取締役会の権限等)
第三百六十二条
取締役会は、すべての取締役で組織する。
4  取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。
一  重要な財産の処分及び譲受け
二  多額の借財
三  支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
四  支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
五  第六百七十六条第一号に掲げる事項その他の社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項
六  取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
七  第四百二十六条第一項の規定による定款の定めに基づく第四百二十三条第一項の責任の免除



・特別委員会に独立性はあるのか。

特別委員会は経営陣から依頼されるため、独立性は疑わしいと言わざるを得ない。また、独立委員会は民法上の委任に基づく善管注意義務が求められるが、株主代表訴訟を受ける可能性はない。これは社外役員が特別委員会を務めた場合も同じである。


・会社法施行規則127条*における「株式会社の支配に関する基本方針」と買収防衛策の関係はどのように考えるのか。

「株式会社の支配に関する基本方針」は、あれば定めるものなので、防衛策とは関係がない。ただし、基本方針を定めることで防衛策の適法性を高めることはできるだろう。

【参考】会社法施行規則
(株式会社の支配に関する基本方針)
第百二十七条
株式会社が当該株式会社の財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針(以下この条において「基本方針」という。)を定めている場合には、次に掲げる事項を事業報告の内容としなければならない。
一  基本方針の内容
二  次に掲げる取組みの具体的な内容
イ 当該株式会社の財産の有効な活用、適切な企業集団の形成その他の基本方針の実現に資する特別な取組み
ロ 基本方針に照らして不適切な者によって当該株式会社の財務及び事業の方針の決定が支配されることを防止するための取組み
三  前号の取組みの次に掲げる要件への該当性に関する当該株式会社の取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の判断及びその判断に係る理由(当該理由が社外役員の存否に関する事項のみである場合における当該事項を除く。)
イ 当該取組みが基本方針に沿うものであること。
ロ 当該取組みが当該株式会社の株主の共同の利益を損なうものではないこと。
ハ 当該取組みが当該株式会社の会社役員の地位の維持を目的とするものではないこと。



・前述の基本方針における「会社の財務および事業の方針決定を支配する者の在り方」の支配する者とは何を示すのか。
今年の各社事業報告の中には、この支配する者を「取締役」と解釈していたものがあったが、これは「株主」のことである。「支配」=「経営」ではない。


・新株予約権の無償割当以外の対抗措置としてはどのようなものがあるか。

①MBO
→上場廃止にすれば買収の脅威からは免れることができるが、これは現実的ではない。
②黄金株 ③議決権制限株式
→適法性があやしい上に、証券取引所の上場適格性に問題あり。
④取締役解任決議加重 ⑤取締役の任期をずらす
→効果が薄い。
以上より、最近では新株予約権を用いた防衛策に一本化の傾向にある。


・敵対的TOBの後、臨時総会で買収防衛策発動の決議をする際、TOBで過半数の応募があったが、防衛策発動の決議にも過半数の支持があった場合、TOBの結果は司法の判断に影響を与えるか。

TOBには強圧性がある。なぜなら、株主は現経営陣を支持していたとしても、もしTOBが成立してしまうと、逆に自分は取り残されてしまうと予想ができるからである。それならば、株主はTOBに応募して今売った方がマシと考えてもおかしくない。よって、TOBの過半数応募は買収防衛策を株主が有害であると判断したわけではない、と言える。

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